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 ローマの休日(原題:Roman Holiday
   監 督 :ウイリアム・ワイラー
   出 演 :オードリー・ヘップバーン、グレゴリー・ペック、他。
   ジャンル:ラブコメ(?)
   1953年  アメリカ



 今更、語りつくされていますね〜!
 でも、私もちょっとくらい言いたい、そんな映画です。

注)以下、ネタバレだらけです!

【あらすじ】
 モノクロ映画です。
 1953年の映画でカラーで撮ることもできたけれど、敢えてモノクロで撮影したようです、 これがカラーで撮影されていたらどんなだったろう? と考えてしまいます。

 某国のアン王女(オードリー・ヘップバーン)はローマを訪問しています。(ヨーロッパ諸国の歴訪中)
 その夜、過密スケジュールで煮詰まってしまった王女は睡眠薬を打たれた後に宿泊先のお城を抜け出すのですが、薬が効き始めて道端のベンチで朦朧としています。
 そこへ通りがかったのが新聞記者のジョー(グレゴリー・ペッグ)です。
 酔っぱらいの女の子に注意してやるくらいのつもりだったのですが、成り行きで王女を自分のアパートに連れ帰って寝かせてやるハメになります。(王女とは知らず! 下心なし!)

 翌日、ジョーは王女の急病を伝える顔写真入りの新聞とお昼なのにまだ眠っている彼女を見比べて、自分の部屋で寝ている女の子が誰であるのか、気が付きます!
 そして新聞記者の彼は大変な特ダネのチャンスである事にも気が付くのです。




ジョーの部屋で目を覚まし、だんだん状況が分かってきた王女が尋ねます。
「このパジャマは … あなたのでしょうか?」
疑いと不安の混じった表情で … 。

 そこから友人のカメラマンを巻き込んで、王女は自分の身分を隠しながら、ジョーは彼女の身分を知っている新聞記者であることを隠しながら、二人は(ライター型カメラを持った友人と共に)ローマの名所巡りをして(=デートして)過ごします。
 夜になり川岸でのダンスパティ―に参加した二人に、王女の国のSPが襲い掛かりますが、二人は川に飛び込み泳いで逃げるのです。

 ジョーは、王女という縛りから解き放たれた彼女の奔放で溌剌とした美しさに徐々に惹かれていきますが、 … 二人共「王女」はもう戻らなければいけない事を分かっていて … 。


【感想】 注)ネタバレだらけです!
 私は若い時から一体何回この映画をみているでしょう。
 ああまたこれか、と思っても見始めると最後まで見てしまうんですね〜!

 若い頃見ていたのは、この映画の若く美しい王女さま(オードリー・ヘップバーン)でした。
 しかし、年を取るにつれてジョー(グレゴリー・ペッグ)の方に視線が移っていったのです。

 ジョーの最初の狡猾な目論見は、王女の魅力の前には無力でしたし、王女は最後まで自分の立場を分かっていました。
 しかし、それが崩れるか、という場面もあったのです。
 母国より派遣されてきたSP達から川を泳いで逃げた二人は、衣類を乾かすために一旦ジョーのアパートに戻りますが、その時の王女の放つ言葉は全て王女の立場を守らねばならない一人の女としての苦しみに満ちていました。
 ジョーの大きすぎるガウンを纏ってバスルームから出てきた王女は「お料理をつくる!」と申し出るのですが彼のアパートには台所が無いのです。
 そう言われた彼女は「腕前はプロ級だけれど、人の為に作ってあげるチャンスがないの!」と悲しげに言うのです。
 ジョーは「台所のあるアパートに引っ越そうかな」とつぶやき、彼女は一瞬返答をためらう様子が見えるのです。
 これはある意味ジョーのプロポーズ同然の言葉であり、彼女のためらいはその立場を超えた感情が成したものでしょう。
 すでに、ジョーは美しくしかもちょっとオチャメな王女に初心(?)は崩壊していますし、王女は多分初めて自分を女として扱ってくれる誠実(?)なジョーに心を奪われています。

 それでも、結局二人は自らの想いを押し殺し、彼女が王女に戻るために、ジョーは彼女を宿泊先のお城のそばまで送っていき、そして分かれるのです。
 普通はここでエンドクレジットが出るところですが、この映画は違ってまだ続きがあるんですよ!
 全てをちゃんとまとめて、けりをつけていくのです。


 翌日、病気の全快(?)した王女の記者会見の場にジョーと友人のカメラマンは出席します。
 二人の出現にちょっとだけうろたえた王女はそれでも健気に気を取り直して、公式の言葉の中にジョーへのメッセージを込め、ジョーもさりげなく返答を述べるのです。
 普通の会見が終わった後、突然王女が「記者の皆さんにご挨拶を。」と言って段を下り居並ぶ記者に一人ずつ握手し始めます。
 真ん中あたりにいた友人のカメラマンとジョーに少しずつ近付いていく、その緊張感はどうでしょう!!
 王女が先ず友人の前に来ると彼はローマのお土産にと、小さな紙袋を渡します。
 王女がちょっとだけ開いてみると、そこには半日間の王女の冒険している姿を写した写真があったのです。
 写真を渡すことで王女の秘密を公開しないことを伝えたのですね!(袋の中にネガは見えなかったような気がするけど、まあいいでしょ! ちなみに、隠し撮りに使われたライター型のカメラは日本製だそうです。)
 ジョーとはさりげなく握手を済ませ壇に戻った王女は振り返って皆に笑顔を向けますが、その時一瞬ジョーに向かってすがるような視線を送るのです。
 しかしジョーは「だめだよ!」「がんばれ!」といさめ励ますような視線を返します。
 
 記者会見が終わってもそこに立っていたジョーは最後の一人になってようやく帰り始めます。
 両手をズボンのポケットに突っ込んでゆっくりと出口に向かってあるいていきます。
 でも、広間から出る前に一度立ち止まって振り返るのです。
 その視線の先には先ほど王女が座っていた玉座があります。
 しかしもう壇上には誰もいません。
 昨日は手を触れることができた彼女はもう言葉も交わせない、恐らく一生二度と会うことはできない王女という立場に戻ってしまった、たった一日前の事なのにもうどうしようもない現実がこのシーンで表されているのです。
 その虚しさ・悲しさ・無力感は、若い時の私には理解できなかったのでしょう。( 彼に後悔はあったでしょうか …? )



振り返ったジョーの視線は、誰もいなくなった壇上をさまよう。
その胸中は … 。



 とは言え、古い映画というせいもあるかも知れませんが、バッドエンドの苦手な私が落ち込む程の深刻な悲劇性は感じないで済みます。
 今でしたら、王女の地位を投げうってジョーの腕に飛び込むというストーリーもありかな? いや、当時はあり得ない事だしそれじゃやっぱりつまらないかな? ラブストーリーの一つの王道を行くようなストーリーですし、これはこれで良いのでしょう。
 きっと他の多くに影響を及ぼしているだろうし、ここからヘップカットやヘップサンダルというものが流行ったそうですし、無名に近かったオードリーは「世界の恋人」になっていくのです。

 いろんなトリビアを隠し持った作品ですので、いろんな楽しみ方ができるようですよ!
 オードリー・ヘップバーンの作品ではもうひとつ「昼下がりの情事」も、いいです!




  2018.09.    ................
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